■■テレビ番組の移り変わり■■
NHKはいろんな専門職種の集合体です。
アナウンサーがいれば、記者もいれば、取材カメラマンもいる。
番組の最後にスタッフの表示が出ますが、
そのときに制作統括という表示があります。
これがプロデューサーです。
プロデューサーというのは
企画立案や番組の品質管理、コスト管理などをします。
ドラマだったらキャスティング、脚本家選びもします。
番組の最終責任者と言えます。
ディレクターも企画を提案しますが、
実際に番組を作る人間です、構成とか演出です。
企画に沿った取材先を考え、
どこに撮影に行くか誰にインタビューするかなどを決めます。
ロケが終われば、編集もやります。
スタジオに出演者を招く場合は、
どういう人がふさわしいのか調べて交渉もします。
このプロデューサーとディレクターを
NHKではPD(プログラムディレクター)と呼びます。
私はこのPDという職種で入社しました。
PDの仕事は、何よりも企画を考えることです。
こういう番組を作りたいという提案がないとPDとは言えません。
また、提案が通らないと番組も作れません。
だから、寝ても覚めても面白いネタはないかと探す毎日です。
よく「NHKは視聴率なんて関係ないでしょ」と言われますが、
そんなことはありません。
1%でも高い視聴率を取りたい。
もちろん、
視聴率を取るために何でもやっていいわけではありませんし、
取れないと分かっていてもやらないといけない番組も沢山あります。
でも、自分の作った番組は
一人でも多くの人に見て貰いたいし、
その気持ちが無かったらいい番組はできません。
視聴率とは何か。
100世帯の地区があったとします。
1人でも誰かがその番組を見ている世帯が30世帯あれば
視聴率は30%。
これを世帯視聴率といいますが、
これが一般的にいっている視聴率のことです。
私がNHKに入ったのは1973年、
テレビの変わり目の頃だったような気がします。
翌年に「NC9・ニュースセンター9時」が始まりました。
それまでニュースと言えば、アナウンサーが
原稿をきちんと読むものでした。
NC9が、キャスターが自分の言葉で伝える最初の
ニュース番組でした。
80年代に入るとフィルムからビデオの時代になりました。
昔だったら、現場で撮ったフィルムを局まで持ち帰り、
現像し、編集して放送していたのが、
撮った映像をそのまま現場から電波に乗せて局に送り、
放送できるようになった。
速報性が格段に高まったのです。
現場中継も容易になりました。
時代も“高度情報化社会”へ。
次第にニュース情報番組が増えていきました。
CG(コンピュータグラフィック)の登場で番組のつくり方も
変わりました。
実写映像では表現できないデータや
複雑な仕組みを分かり易く伝えられるようになりました。
ニュース情報番組の時代に
CGは大きな武器になったように思います。
日進月歩のCG技術、
いまでは実写と区別し難いような映像表現まで可能です。
■■ヒット番組のポイントと、これからのNHK■■
時代の変化に合わせてテレビ局は
新しい番組を開発し、編成を変えてきました。
新番組の開発はなかなか難しい、何がヒットするか悩みつづけます。
例えば歴史番組ですが、
これはNHKの得意ジャンルで
1960年代から「日本史探訪」や「歴史への招待」、「ライバル日本史」
といった番組をつくり続けてきました。
歴史番組と言えば、
戦国時代とか、幕末とか、だいたいネタは決まっています。
そうすると、
新しい番組として売り出す時は見せ方や視点の新しさが必要です。
2000年にスタートした大阪局制作の「その時 歴史が動いた」も、
悩んだ末の一工夫があります。
歴史上の事件を語る時、
一つの日時を歴史的瞬間・「その時」として設定し、
それに向かってストリーを綴ってゆく手法をとることにしたのです。
第1回は「日本海海戦」がテーマでしたが、
勝敗の帰趨を決めた作戦、
連合艦隊がロシア艦隊の眼前でターンするという
東郷平八郎の決断の瞬間を「その時」に設定しました。
番組はそのクライマックスに向かって盛り上がっていく。
いい企画かどうか判断する上で5つのポイントがあると思います。
1.テーマ、つまり「訴えたいこと」が明確で、
かつ重要でなければやる意味がない
2.テレビは新鮮でないとダメ。タイムリーでないといけない
3.スクープがあること。
どんなに小さな話でも知らない話がないといけない
4.斬新な演出、語り口が必要
5.感動がないといけない
「その時 歴史が動いた」は、特に、この4に当てはまるでしょう。
更に松平アナウンサーという名キャスターを得て、
独特の語り口が多くの人の支持を得たと思います。
私が大阪に勤務していた時にスタートした番組だけに
思い出深いものがあります。
誰もが知っている長寿番組がいくつかあります。
「のど自慢」、「新婚さんいらっしゃい」、「なんでも鑑定団」、
「探偵ナイトスクープ」などは私の好きな長寿番組です。
何がこれだけ長続きさせているのか、共通点は何か。
「視聴者参加型」だということです。
そして私の造語ですが、「善男善女型」。
どの番組も素人の出演者の飾らぬ喜びと巧まざる
ユーモアに溢れています。
「人間っていいもんだなぁ」
という共感が長く支持を得ている秘密に思えます。
なかなかヒット番組が生まれぬ時代になってきました。
時代的な背景でいうと、
紅白歌合戦が視聴率80%も取ったような1960~70年代は
1家に1台のテレビを家族そろって見ていた時代です。
それからテレビが1部屋1台になりました。
これが今は1人に1台と言ってもいい時代です。
ワンセグも急速に普及しています。
価値観、嗜好が多様化していて、
1つの番組で多くの視聴者を一挙に獲得しようと思っても
なかなかできません。
去年はお陰様で「篤姫」がヒットしました。
このところNHKは視聴率が好調だと言われています。
とても嬉しいのですが、課題もあります。
視聴者層が中高年の方に偏っていることです。
10年、20年のスパンで40歳代以下の若い世代が
NHK離れを起こしているようです。
「歳をとればNHKを見るようになるよ」と言う人もいますが、
実は40歳の時NHKを見ていなかった人は50歳になっても
NHKを余り見ないことが分かってきました。
将来のことを考えると、
いまの内から若い世代にNHKをもっと見て貰えるように
番組開発していかねばと考えています。
若い人たちには
NHKは堅苦しいとか暗いといったイメージがあるようです。
彼らの感性に合った、しかしNHKらしさを失わない番組。
難題ですが、一生懸命開発に取り組んでいるところです。
去年の12月に「NHKオンデマンド」が始まりました。
これはNHKの番組をインターネットを通して有料で配信するものです。
見逃した番組を見たい、
昔懐かしい番組をもう一度見たい、
それも自分の都合のいい時に見たいという要望にこたえるものです。
これが普及すると
テレビの見方がまた大きく変わるかもしれません。
視聴率に対する考え方も変わるかもしれません。
しかし、
結局は10年後、20年後にも残る
質の高い番組をつくり続けることの重要性は変わらないでしょう。