■ 名古屋経営研究会通信 2007/4/30
■■ 4月例会 講演レポート
■■■ テーマ 「ジャッジの瞬間~
■■■■ オリンピック審判員の目から見たプレーヤーの心理」
■■■■ 講 師(財)日本バドミントン協会 理事
■■■■ 国際バドミントン連盟 認定国際レフェリー
■■■■ 山田 順一郎 氏
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開催日 平成19年4月12日(木)
会場 ローズコートホテル
私が審判の道に入った動機ですが、
最初から審判を目指してこの道に入ったのではありません。
最初のきっかけは、バドミントンとの出会いではないかと思います。
出会いは37年ほど前の高校1年の時秋頃でした。
そのときからスポーツに対する自信過剰も手伝い、
「自分はバドミントン界の頂点を目指すんだ」と
分不相応な目標を持ったのです。
しかし、
実際は自分の実力では到底無理な目標であることを
大学3年の頃悟りました。
ところが、
大学時代のあるとき、ルールの講習会に参加する機会が
ありました。
そこでルールというものに大変興味を持ったのです。
その時、
「自分は審判員としてバドミントンの頂点を目指そう」と
決心したわけです。
■■対戦競技の審判員が一番大変■■
大きく分けると優劣の決め方によって、
次の三つに、競技は分類されると思います。
1.「記録競技」—記録によって優劣を競う
例えば重量挙げや円盤投げ、砲丸投げ等の陸上のフィールド
競技などがあります。
2.「採点競技」—演技をし、その採点によって優劣を競う、
例えばフィギャースケート、体操、シンクロナイズドスイミング
などがあります。
3.「対戦競技」—相対する二つのサイドが戦って優劣を決める
例えば、野球、サッカー、バレーボール、卓球、バドミントン
などがあります。
高度な技術をもった審判員の存在というのは、
すべての競技において優劣を決めるのには必ず必要となってきますが、
審判員の判定に伴うトラブルの発生状況を見ますと、
対戦競技においてその頻度が一番高いと思います。
と言うのは、
「対戦競技」においては審判の判定により、
一方にポイントが入ったり、
またそれが勝利につながったりするため、
判定に対して必ずどちらか一方は不満をもち、
審判員の判定を巡り、トラブルが生ずるわけです。
■■良い審判員の必須条件■■
近年、スポーツで使われる道具の進歩にはめざましいものが
あります。
道具の進歩はプレーをする技術の向上を促し、
国際レベルの選手の中ではプレーに対する技術の差は、
ほとんどなくなってきています。
プレーヤー同志の力が伯仲している試合では、
1点という得点がどうしても欲しい時や、
ゲームの流れをかえたいときは、
プレーヤーは本能的または故意に審判の一瞬のすきをついて、
ルール違反の行為をしてきます。
この審判員の一瞬のスキをついて、
故意に行われるルール違反を的確に見抜ける力があるかどうかが、
「一流の審判員の必須条件の第一番目」でないかと思います。
では、
このルール違反を見抜くため審判員はどのような対策をするのか?
一流の審判員はプレーヤーが試合に集中すると同じ位、
自分の気持ちを試合に集中させます。
そしてプレーヤーの戦略に対する考えと同じレベルに自分を持って
いきます。
そうすることによって
プレーヤーが一瞬の隙をついて故意に行ってくるルール違反の
タイミングが分かるようになり、的確な判定が下せるようになります。
さらにもうひとつ必須条件。
それは試合を審判員のもとで管理し、
お互いのプレーヤーを安心させ、
納得させ、選手の力を十分に発揮させることにあります。
このようなマッチコントロールができることが、
もうひとつの「一流の審判員の必須条件」です。
■■審判員とプレーヤーの戦い■■
本来、試合をコントロールするのは主審の役割です。
しかし、
選手は相手選手と戦うと同時に、
試合のコントロール権を主審から奪おうと、主審にも戦いを
挑んできます。
1.試合開始前には審判員に愛嬌を振りまく選手
(審判員を自分の味方に付けようとして)
2.選手集合場所で握手を交わしてくる選手
(プレーヤーと審判員は腹の底は裏腹)
3.実際に反則プレーをし、
その審判員が的確に見抜ける力があるかどうかをチェックする選手
4.高圧的な態度で審判員の判定に迫る選手
(審判員を自分のペースに巻き込む為に)
このようにして
プレーヤーも何とかして試合を自分のコントロール下に置いて、
少しでも楽に戦おうとしてくるわけです。
ですから、
審判員の一瞬のスキをついて、
故意に行われるルール違反を的確に見抜き、
公平、円滑に、試合の審判を進めることができ、
試合をとどこおりなく終わらせることができた時、
主審は勝者と同じ位の心地よい精神的疲労感と同時に
爽快感を味わうことができます。
この一瞬の爽快感が味わえた時は、
主審冥利に尽きるひとときでないかと思います。
またこのときのために審判をしているといっても過言では
ありません。
■■ミスジャッジについて■■
一流の審判員は絶対にミスジャッジはしないかというと、
「どんな一流の審判員でも必ずミスジャッジはします」と
私は断言します。
私自身も大きな大会で必ず1、2回はミスジャッジを犯して
しまいます。
しかし、
そのときは絶対にその判定を覆すようなことはしません。
すれば傷口はますます深くなっていくからです。
でも、どんな競技の審判員でもそうですが、
必ず何日かあとには、
他人にそのミスジャッジを打ち明けたくなるものです。
しかし、
過失によるミスジャッジのほかに、審判による作為的な
ミスジャッジもあります。
・審判員の母国愛
・自国スポーツ団体からの依頼(勝つことによって補助金が上がる)
それに比べると、日本の線審は大変まじめです。
今日の私の話で、
トッププレーヤーというものは、
勝つためには手段を選ばない、自己中心的な人間のように
思われたと思います。
しかし、
それはほんの一瞬、「心の悪魔」がささやいた時だけのことです。
それ以外は、常に我々に感動と勇気を与えてくれるものです。
どんな時でも目標を持ち、常にそれに対して最善を尽くす。
そうすれば必ず道は通ずるものだということを
スポーツは私に教えてくれました。
この素晴らしいい人生の教訓を教えてくれたスポーツ。
そしてこの十数年間に世界選手権で何度も決勝戦に出してくれ、
最後にはオリンピックの3位決定戦にも出してもらえた
バドミントンに私は大いに感謝をしています。