201310

10月例会 講演レポート 
   テーマ 安倍政権の命運
   講師  元毎日新聞社 常務  
       慶應大学マスメディア・コミュニケーション研究所講師
       河内 孝 氏
 NAGOYA KEIEI KENKYUKAI  BUSINESS & CULTURE    
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
          開催日 平成25年10月4日(金)   
          会場  料亭 蔦茂   
■東京オリンピック開催がもたらす変化
去年12月に安倍さんが自民党総裁になり、
衆議院選で自民党が政権をとりました。
この時、安倍さんと側近たちが考えたのは6年コースです。
ところが東京オリンピック開催決定ということで、
考えていた政権スケジュールが微妙に変わりつつあります。
簡単にいうと6年コースから7年コースに変わっている。
政局日程でいくと、2015年4月に統一地方選があります。
9月に自民党総裁選挙。
ここで、実績や支持率によりますが、
安倍再選ということになると2018年9月まで任期が
あるわけです。
そこで花道というのが6年コースだ。
それまでに後継者を決めて、
仕事を終わらせるつもりだったのですが、
オリンピックが決まった。
この時点で、安倍さんは、まだ64歳。
どうせならオリンピックまではやらせたいよねと。
「アンダー・コントロール」で
オリンピックを東京へ持ってきたのは安倍なのだから、
いいじゃないかという3選論が、
側近あたりからポツポツ出始めています。
今後のスケジュールとしては19年夏に参議院の任期がきます。
ここでもう一度ダブル選挙をやるかという話がありますが、
ダブル選挙というのは邪道なのです。
これを連続してやれるか。
ただ、2020年8月は東京五輪で、
20年6月に衆議院の任期が満了になりますから、
常識的にみれば、19年中に衆議院の選挙も片付けておきたい。
そうすると、
19年のダブル選挙という話が、またでてくるかもしれません。
 
こうやって13年から20年までの7年間を検討してみると、
全国レベルの選挙がないのは来年15年と17年しかない
ということがおわかりになるかと思います。
それは何を意味しているのか?
選挙の年というのは、憲法改正の国民投票だとか、
大きな政策変更をして、国論を二分する政治決定は、
しにくいわけです。
だから一見、安倍さんにとって、
長い3年二期、6年の長期政権であるように見えるけれど
実は政治的にやりたいことをやる、という年は
来年と17年しかないわけです。
17年というのは再選されることを前提にしていますから、
明らかにフリーハンドを持った年というのは来年しかない。
それを前提にして、
予算があがる4月以降、来年一杯は、
集団的自衛権とか、自衛隊法とか、関係法令の改正をしたい。
そこの筋道がつけば、憲法改正というものに着手して、
2015年の統一地方選、自民党総裁選に入って行きたいな、
というふうに考えていたと思います
それが7年コースということを射程にいれると、
もう少し政策選択のスパンが伸びる。
憲法改正とかは、すぐではなくていいのでは。
長期政権を考えると、経済優先、生活関連重点の期間を、
もう半年くらい長引かせてもいいんじゃないか
という流れが出てきている。
では、二期6年+1年で
一体、いつ、何を、どうやるつもりなのか?
2014年は、防衛計画の大綱の見直しが行われます。
今までは攻められた段階で撃退する。
敵の本拠地やミサイル基地をたたくのは、アメリカだ
という分担だったわけですが、
防衛のために先制攻撃もありうる、
と踏み込んだ自衛隊作りが始まっていくのではないか
と思います。
具体的には、島を取られたら取り返すという、
海兵隊型の揚陸作戦能力などを持つ。
これについて国会では
北朝鮮を意識しているんだというでしょうが、
実際の狙いは中国です。
また、日米の防衛ガイドラインの見直し。
今までの路線でいうと、極東で有事があった場合に、
日本領海、及びそれに隣接したところで、日米共同行動する
ということだったのですが、
これがもう少し、より一般的な軍事同盟、
つまりアメリカを攻められたら、日本が共同対処する行動に
踏み込むような内容になっていくでしょう。
これらは、ちょっとした骨折り仕事です。
■安倍政権のとってのツキとは、落とし穴とは
 
安倍政権も1年、経ちました。
安倍政権にどんなツキがあって、落とし穴が待ち受けているか?
ツキとしては、
まず、政治ジャーナリズムの能力低下があります。
しばらく1年ごとに政権が変わったために、
多くの記者が長期政権を知らない。
実は、長期政権のノウハウというものがあるのですが、
メディアの方にそれを監視するノウハウがないから
結局、やりたいようにやられてしまうのです。
低減税率というエサで新聞社を味方につけたことも、
ツキのうちでしょう。
一方、最大のリスクは、中国、韓国との関係です。
この問題について、打開のめどは立ってない。
何故かというと、
日、中、韓、米、露という五カ国の構図が変わったからです。
少し前までは、北朝鮮が韓国を攻めた場合、
韓国にとって用心棒はアメリカしかなかった。
だからアメリカの言うことを聞くしかなかった。
アメリカの意向もあって
日本とは、ケンカしたいけれど我慢してきた、
というのが日韓関係の政治的な構図だったわけです。
ところが中韓関係が大きく変わった。
いまや韓国の最大の輸出国は、中国ですし、
進出韓国企業も圧倒的に中国が多い。
今、中韓関係は、とても良いでのす。
そうなると日本との関係は軽くなってしまうわけです。
神戸大学の先生によると、
「中国人にとって日本人が嫌いだ」という曲線と、
「韓国人にとって日本人が嫌いだ」という曲線がある。
この2つの曲線は70年代から全く変わっていないのです。
6割くらいは常に日本が嫌い。
ただ、中国の貿易に日本が占める比率が非常に高いときは、
それが表面化しない。
韓国も同じです。
日本への経済依存関係が強い時、
米国の韓国への影響が強い時は、表に出ないわけです。
つまり、再び韓国の米国依存が高まり、
中国の対日経済依存が高まるまで改善はしないということです。
当面は、我慢するしかない。
前回からの教訓に学んでいるのもツキの内です。
前回は、「お友達内閣批判」というのがありました。
その反省で、人事上は結構上手くやっています。
「ぶら下がり取材」というのを辞めたのもそうですね。
テレビで10秒くらいで国民にぱっとメッセージを伝える
というのは、小泉さんの感性の人ならできますが、
安倍さんは、できない。
それが分かったからやらない。
その代わり、記者会見をするときは、ちゃんと準備してやる。
また安倍政権には、
「打って出るな、敵失を待て」という考えがあります。
総裁選で二位だった彼が勝てたのも
石原さんの敵失によるものです。
12月総選挙、6月参議院選挙、
これは民主党が負けたというよりも自壊したわけです。
そうすると潮目はいつ変わるのか。
国民は、来年の増税が始まったあたりで、なんとなく目覚めて、
これはヤバイぞ、安倍にコントロールを任せて大丈夫か、
という声が支持率に反映するのではないか。
そこらから変化が始まるような気がします。