201309

9月例会 講演レポート 
   テーマ ビジネス・スキルをあげるために、
       「オン」の時間にこそ歌舞伎を見よう!
   講師  歌舞伎ソムリエ おくだ健太郎氏
 NAGOYA KEIEI KENKYUKAI  BUSINESS & CULTURE    
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          開催日 平成25年9月6日(金)   
          会場  ローズコートホテル   
■ちょっと意外な歌舞伎の世界
歌舞伎には「顔見世」という言葉があります。
江戸時代から使われている専門用語です。
江戸時代の年度始めというのは、前年の11月でした。
そのときには、たくさんのスターが揃います。
その年度始めの公演を「顔見世」といっていたのです。
江戸には幕府が公認する劇場が3つありました。
中村座、市村座、森田座です。
この3つの劇場が、町中でしのぎを削っていたのです。
森田座は、歌舞伎座のある東銀座の辺り。
中村座は、もともと日本橋辺りにあって、
それが人形町に移りました。
市村座も中村座の近くでした。
なぜ、年度始めが11月だったかのか?
現在、歌舞伎興行というのは、
松竹という興行会社が管轄しています。
芸能界でいえばプロダクションのようなものです。
ところが、
江戸時代における歌舞伎役者さんは、
今ほど近代的なショービジネスが確立されている
わけではありません。
役者さん、一人一人、
それぞれの家が個人事業主のようなものだったのです。
ですから、役者さんは、一年ごとに、
来年一年間をどこの芝居小屋と契約するかを考えながら、
中村座、市村座、森田座のどこかと契約するわけです。
毎年、毎年、契約更新していくというのが、
江戸の芝居なのです。
つまり、毎年、役者さんの顔ぶれが変わるわけです。
顔見世芝居を観ることで、
向こう一年は、こんなスターが揃うんだなとか
どういう芝居になるのかなというようなことを想像し、
それが歌舞伎ファンの中で話題になったりするわけです。
11月というのは旧暦ですから、
気候としては今の12月、1月くらいです。
そろそろ年の瀬が気になる頃です。
昔は三十日で借金がちゃんとチャラになっているかどうかを
調べたりして、とても忙しい時期です。
世間では芝居を観ている場合ではない。
そういうところにあえて顔見世芝居をして
観客を呼ぼうとする。
歌舞伎ショービジネスとしての
経営戦略を感じられるのが11月といえます。
良い意味で、
商売っ気のある、活気ある業界だったといえます。
■商人の集まり「歌舞伎」
その他にも歌舞伎には
活気のある現象がたくさんあります。
それが今にも受け継げられています。
「掛け声」
それぞれの主だった役者さんには
「○○屋」という屋号がついています。
例えば、
福助さん、橋之助さんは「成駒屋」
坂東彌十郎さんは「大和屋」といいます。
芝居というのは、
劇場につめかけた観客に対して、
役者さんが自分たちの芝居、演技、芸を売る
観客は、それを買う
そこには、普段のお店で、
売り手と買い手のやりとりがあるように、
役者と観客との間でやりとりをする。
そのやりとりで「良かったよっ!」という意思表示が、
「○○屋!」という掛け声なのです。
年間スケジュールとして、
顔見世が11月からスタートして12月半ばくらいまで
あります。
年が明けて1月から、
初春の芝居ということで、あらためて華々しくやります。
昔の歌舞伎というのはお正月が2回あるのです。
昔の歌舞伎公演は、
1月の芝居を2月の半ばまでやっています。
1ヶ月半スパンです。
半月おいて3月。
そこから4月半ばまでやって、最後に5月。
5月だけは短くて、5月27日まで。
11月の顔見世から、5月27日のゴールに向かって、
江戸であれば3つの芝居小屋が、競っているのです。
5月28日は、曽我兄弟の「仇討ちの日」です。
赤ちゃんのときにお父さんを殺されてしまった曽我兄弟。
お父さんの仇を、18年後、大人になって見事果たしたのです。
ただ、そのとき
兄弟も討死してしまったという悲劇のヒーローとして、
毎年5月28日「仇討ちの日」とされています。
江戸の芝居は、
3つの劇場とも、毎年、毎年、主役は曽我兄弟です。
同じ曽我兄弟という演目で、
3つの劇場が競争するのを楽しむのが江戸の歌舞伎です。
プロ野球に、
それぞれ観客が応援しているチームがあるように、
あるいは、応援している選手がいるように、
歌舞伎にも、それぞれ応援している劇場があって、
観客同士のやりとりがある。
そういう心理が、「○○屋!」という
掛け声にもなったのではないかと思います。
今度、お芝居をよく観ていてください。
芝居の中で誰かが大事なことをし始めたとき、
他の人はピタッと動きが止まっています。
しばらくやることがない登場人物であれば、
その場にはいるのですが、後ろを向いていたりします。
他の人の商売のジャマをしない。
一事が万事、
役者さんが芸をしている、演技をしているというのは、
ものを売り買いしている商人といえます。
歌舞伎というのは
マーケット原理が働いている世界なんだなと、
感じていただけたらと思います。