201210

10月例会 講演レポート 
   テーマ 「経営戦略―環境適応から環境創造へ―」
   講師  名城大学 経営学部
       教授 伊藤 賢次 氏 
NAGOYA KEIEI KENKYUKAI  BUSINESS & CULTURE    
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          開催日 平成24年10月17日(水)  
          会場  ローズコートホテル   
■■企業を取り巻く経営環境の変化■■
経営戦略は、短期的ではなく、
どうしたら企業が5年、10年、30年と成長するのか
という成功の法則を明らかにすることが大事です。
経営戦略の大家、
愛知県出身で東京理科大学の教授の伊丹先生は、
経営戦略とは、
市場の中の組織としての活動と
長期的な基本設計図といっています。
近年における一番の成長産業は
コンビニだと私は思います。
あのちっぽけなコンビニが出たときに、
ここまで大きくなるなんてことは、
誰も思っていませんでした。
ところが、
すでに全国で5万店余りあって、
売上は4年前に百貨店を抜いています。
また、
宅配便や外食産業も非常に大きく成長しています。
一流企業といえども、
ちょっと長い目で見るとすごく大きく変化しています。
例えば、
旭化成の1950年から1995年の45年間の売上比率を見ると、
繊維の比率が、下がっています。
2010年では6.8%となっています。
石油化学、住宅建材の比率が高くなっています。
なぜ、こういうことが起きるのか?
どんな製品でもプロダクト・ライフサイクル
(一般に「PLC」と略称される)があるからです。
仮に旭化成が繊維にこだわっていたら
売上は今の6.8%しかなかったわけです。
ここから言えることは、
企業は長い目で見た場合に、
「新規事業に取り組まないといけない」ということです。
1955年から32年間の日本の企業ランキングで見てみます。
当時1位は東洋紡でした。
トヨタ自動車は、なんと74位です。
売上は東洋紡の10分の1です。
しかし、
32年後の1982年に、1位に踊りでたのはトヨタであり、
東洋紡は87位に落ちています。
売上高でいうとトヨタの約10分の1に下がっています。
それくらい大きな変化が起きているのです。
繊維業界全体で見ると、
この32年間で16.4倍伸びています。
これに比べて、自動車業界は750倍であり、
繊維業界の46倍も伸びているわけです。
「どこの業界に身を置くか」をよく考えないと、
自分は伸びていると思っていても、
経営環境は、がらっと変わってしまうのです。
企業が中長期的に発展するには、
経営環境の影響を強く受けます。
経営戦略は
「経営環境の中で考える」ことが重要である
ということです。
■■経営戦略の本質■■
経営戦略とは何かというと、その中核は2つあります。
「環境適応」と「自己革新」です。
環境適応も、適応ではなく、
逆に環境を創造していくことも可能です。
「環境創造」こそが、もっと優れた経営戦略といえます。
経営学で競争と言った場合、2つの競争があります。
「短期的な競争」と「長期的な競争」。
短期的な競争とは、表面的なの競争です。
しかし、
それを本質的な意味では、
それを作っている深層の競争、
つまり
「組織能力」がより大事なこととなります。
経営というのは、
開発から調達、生産、販売に至るまでの
「トータルなシステム」であり、
日常業務の流れ(「ビジネス・プロセス」)です。
この日常業務の流れこそが大事です。
これは「仕事の仕組み」です。
仕事の仕組みというのは、
いろんな会社を比較しますと、
それぞれ独自なやり方をしています。
こういった仕事の仕組みこそが、
実は、組織能力を決めているのです。
そして
その元にあるのは、「組織文化」だと私は考えています。
例えば、
トヨタ関係では、会議など、必ず「5分前集合」
(「5分前主義」)です。
5分前に出欠をとって、
全員が集まっていたら、その時点から会議が始まり、
5分前には終わります。
これはトヨタでは当たり前です。
でも、
必ずしも、よその会社では、これが当たり前ではない。
その組織のメンバーが“当たり前”と考えている
価値観や世界観及び行動規範から構成されるものが
「組織文化」です。
経営戦略には、3つの特質があります。
「変革性」「一貫性」「重点性」です。
この3つの特質は、長期的な視点であり、
変革を目指すものであり、
短期的な視点であったり、
現状の延長や手直しや修正などは経営戦略とは言いません。
経営戦略を考えるには、
まずビジョンがなければだめです。
ただし、
経営戦略は、(一般に複数の事業をもつ)
会社全体をどう成長させていくかということと、
あるひとつの事業について
市場の中でどう競争していくかという話とは、
分けて考えないといけません。
前者が「成長戦略」であり、
後者が「競争戦略」となります。
今、私が言ったビジョンというのは、
成長性の話です。
競争戦略は、
事業の種類やライフサイクル(PLC)によって
変わってきますので、
5年、10年と同じ戦略が有効であることは
あり得ないことです。
そうすると、
いくつかの事業を持つと、
その1つ1つの事業については競争戦略となりますが、
会社全体としては、
複数の事業をどう上手くやっていくかという
成長戦略が必要になるわけです。
■■戦略意思決定と「ばかな」と「なるほど」■■
最後に、「戦略的意思決定」ということと、
「ばかな」と「なるほど」という
2つの話をしたいと思います。
会社を長い目で見た場合、
乗るか反るかの大博打を打たないといけない時が
あるわけです。
そこで大きく成長するか、
そのまま伸びずに終わってしまうかの分岐点です。
このときに、
将来をどうするかを決めることが、
「戦略的意思決定」と言われるものです。
例えば、
ホンダが四輪にでるとき、
候補としては、アメリカ、東南アジア、
ヨーロッパの3つがありました。
皆が「東南アジアかヨーロッパがいいです」
と言っていた時に、
ホンダのトップはアメリカに行くんだと言った。
アメリカでトップにならなければ、
自社の目標である「世界一のオートメーカー」になれない
と判断したためです。
最近の例では、
武田薬品の海外企業の買収(買収金額1兆円以上)、
ソフトバンクによるアメリカの携帯会社の買収が
挙げられます。
もうひとつは、
「ばかな」と「なるほど」ということです。
ヤマト運輸の宅急便事業のように、
最初は誰が聞いても、
「ばかな、そんなこと止めろよ」
といわれるようなことでも、
5年経ち軌道に乗るようになると、
「なるほど!」と言われるようになる。
そうすると、多数の会社が一斉に参入してくる。
宅配便の場合には、
それまでガラガラだったのが、
35社が一斉に参入してきたのです。
こういう先を見据えたことが実は戦略であり、
経営なのです。
企業にとって一番いいのは「独占」です。
これをわかりやい言葉で言い換えると
「差別化」です。
経営戦略の本質は、
筋が通った上での、即ち合理性のある差別性です。
「合理性」と「差別性」を同時に持つことが
重要です。