201206レポート 自衛する老後

■6月例会 講演レポート 
   テーマ 「自衛する老後」
   講師  元毎日新聞社 常務  
   慶應大学マスメディア・コミュニケーション研究所講師
  河内 孝 氏 
   NAGOYA KEIEI KENKYUKAI  BUSINESS & CULTURE    
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         開催日 平成24年6月22日(金)  
   会場  ローズコートホテル  
■崩壊寸前の介護政策
私が毎日新聞を辞めたとき、
全国の特別養護老人ホーム組織の会長をやっていた友だちに
少し手伝ってくれないかと言われたことがきっかけで、
老人福祉に関わるようになり勉強してきました。
その中で、
どうしても理解できない疑問が2つ出てきたのです。
65歳以上の第一号被保険者が2695万人で、
40歳から64歳の第二号被保険者が4240万人います。
これが毎月、平均にすると5000円近く払っているのです。
一方で、
介護認定は、要支援1~2、要介護1~5の7段階あり、
認定を受けてなんらかの介護保険を使っている人が403万人。
つまり
保険を使っている人は10%以下ということです。
9割が掛け捨て。
にもかかわらず介護財政は火の車です。
だから3年ごとに、
どんどんと保険料が上がっていっているのです。
使う人が一割以下で、
毎回値上げしないといけないような状況にあって、
これが30%になったら、どうなってしまうのか?
ということです。
この疑問を財務省や厚労省の人、介護保険施設の経営者、
誰に聞いても、答えられない。
役人に言わせれば、
「オレが辞めた後のことまでは知らないよ」
ということらしい。
厚生年金制度を始めたときのころ、
社会保険庁の内部会議の記録によると、
毎月お金はどんどん入ってくるが使い道がないから困っていた。
貯まって仕方ないから、
ざるに水を注ぐようなレジャー施設を作ったり
簡保の家を造ったりしたわけですね。
そして実際、必要な時には財政が破たん状態であった、
というわけです。
介護保険も同じ道を歩んでいる。
省の中で、自由に使える特定財源である年金や医療保険、
介護保険など特別会計を作った人はチャンピオン、
殿堂入りなのです。
調べれば、調べるほど、いかにいい加減かがわかる。 
役人だけがいい加減なのはまだしも、
我々の人生がそれに左右されるようなことはやめて欲しい。
これは大変だぞということを、
特に若い人に知っていただきたいのです。
■在宅介護を勧めたい国の本音
第二の疑問は厚労省が推進する「在宅介護路線」です。
2025年は、日本の高齢のピーク。
人口当たりの65歳以上が一番多くなる。
そのときに何が起こるか?
最近、良く新聞ででてくる言葉として「在宅介護」がある。
施設で老いていくより、「住み慣れた家の方が幸せでしょ」
と聞かれて「NO」という人はいないわけです。
少し古い統計ですが、
65歳以上の高齢者の人に伺ったところ、
家で死にたいという人が88%。
しかし
実際に家で死んでいる人は10%切っています。
この理由のひとつは、
火葬場に持っていくのに、
死体検案書という医者がサインした書類が必要なので、
どこで死のうと
いったんは、医者に見てもらわないといけない。
しかも、
死んでから48時間以内に医者に見てもらって、
死亡検案書を出してもらわないと変死扱いになってしまい
パトカーが来てしまう。
そういうこともあって、
なかなか家で死ぬのは難しくなったのです。
しかし、
この在宅介護、在宅医療、訪問診療など、
役人が”おいしいこと”言うときは、
私の経験で言えば、絶対に裏がある。
ということで調べてみたら、
あっという間に答えがでました。
結論からいうと、
国から出るお金が、在宅の方が安上がりなのです。
家で老いて、家で亡くなってくれた方が、
医療費や介護保険の支払いが半分くらいで済む。
だから、役人は、
住み慣れたところでとか、地域に根ざしたとか、
家族に囲まれてとか、
そういう耳触りのよいことを言うわけです。
介護保険の給付をデータ的に調べてみると、
施設に入っている人は、
施設が管理して必要な介護保険の請求をします。
例えば、
要介護3というのは寝起きができない、
排泄も大変、着替えも助けがいるという状態です。
この場合、月に36万5千円ほど介護保険が使える。
在宅介護の場合、
この枠でどういうことができるかというと、
1日2回、30分ずつ計1時間の訪問介護、
月4日くらいのショートステイ、
週1回くらいのデイサービス、
こんなメニューになるかと思います。
これで一割負担、一月3万7千円ですね。
これ以上のサービスは全額自己負担です。
一方、日本で今、国民年金を受給されている方の平均額が
6万6千円。
自分の持ち家だとしても、
ガス、水道、電気代、食費もいるわけです。
だから在宅のケアプランは、
「払える範囲」でケアマネさんにつくってもらう。
つまり限度の半分以下になる。
役人はシメシメです。
逆に施設に入ってしまえば
衣食住込で4人部屋であれば月、6万円以下で済む。
しかも家族介護はゼロ。
つまり、国にとって在宅介護は安上がり。
在宅に誘導して介護保険の支出を下げようとしている
というふうに考えるべきです。
在宅介護の悲惨さ。
在宅介護については、
ご経験のある方もいらっしゃることと思います。
家族介護力が不可欠です。
午前2回、午後2回、深夜1回で5回、
訪問介護を呼んだら自己負担です。
独居老人のことを考えて下さい。
30分間の訪問介護では何が出来るのでしょう。
あるとき行ってみたら、死んでいたということが
起こってしまう。
これが住み慣れた、お年寄りにやさしい介護でしょうか?
家族介護で一番辛いのは、
「いつ終わるかがわからない」ということです。
にも拘らず、
なぜこんなことを厚労省は勧めるのか。
カネ勘定しか考えてないといわざるを得ない。
■自衛する老後
日本の介護政策というのは、崩壊寸前といわれています。
たしかに、保険財政だけ考えれば、そうですが、
私自身はそうは思っていません。
なぜかというと、今の介護保険では
65歳以上の人は非生産人口に入れられているからです。
でも機会さえあれば皆さん70歳でも75歳までも働きたい。
そうすれば保険を使う人より、「掛け捨て」の人が
増えるのです。
そこは、ちょっと発想を変える。
おんぶされる方も、おんぶされたくないのです。
65歳以上の人は働けないのかというと、とんでもありません。 
今は75歳まで働いている人は、たくさんいます。
個人差はありますが、
今の65歳以上の人は、昔でいうと50代です。
年金だけでなく、もっともっと稼いでいただいて、
おんぶされるのではなく、皆が担ぐ方になる。
その方が、皆、気持ちいいし、
「楽しくなければ老後じゃない」。
そういうことを考えたらどうかというのが
私の主張なのです。

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