2008年6月例会

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開催日 平成20年6月18日(水)
                 会場  ローズコートホテル
■■Q(品質)C(価格)D(数量・納期)(キュウ・シー・ディー)が
                          企業成功のカギ■■
製造業にとっての課題は2つあります。
1つは多品種少量生産。
もうひとつが、高いQCD水準です
品質が良くて、値段が安く、
納期も自分が欲しいときに、欲しいものが手に入る。
高いQCD水準を実現することが
今企業にとって一番大事なことではないかと思います。
従来は、品質と値段が一般的に考えられてきましたが、
21世紀ではD(数量・納期)がとても大事になってきました。
大事なことは、「欲しいときに、欲しい数だけ」ということです。
代表的な成功例が、
外食産業(ファスト・フード)、CVS(コンビニ)、宅急便です。
ちなみに牛丼の吉野家のキャッチフレーズは
「うまくて(Q)、安くて(C)、速い(D)」で、QCDそのものです。
コンビニは355日、24時間営業で、
家から歩いて行けるところにあります(D)。
宅急便(正確には宅配便)も翌日には必ず届ける(D)のが売り物で、
短期間で郵便小包を圧倒しました。
これをトヨタ流にいうと「ジャスト・イン・タイム(JIT)」です。
企業の成功要因は、
「高品質、低価格、短納期の“同時実現”」です。
これが世の中の流れです。
背景には売り手市場から買い手市場への大きな転換があります。
■■事業革新のための技法としてのトヨタ生産方式(TPS)■■
TPSは、JIT(源は豊田喜一郎)と自働化(源は豊田佐吉)の
2本柱からなります。
JITとは、
お客さんが「欲しいものを、欲しいときに、欲しい数だけ」、生産し、
供給するということです。
ですから、基本的には、1個流しです。
生産は、1個単位。
なぜなら、
お客さんの要望は、基本的に1個単位でくるからです。
また、不良を作ってしまった場合、
1個単位で作れば、不良は1個で済みますが、
同時に2個作ってしまうと不良も2個作ってしまうことになる。
そういうムダをなくすためです。
1個流しですと大きな備や場所は不要となります。
大きな資金は不要です。
必要なものは知恵であり、カイゼン活動です。
またこうすれば、
お客さんからの要求の変化にもすばやい対応が可能となります。
自働化~ニンベンのついた自働化。
機械が作る以上、必ず、不良や異常が発生します。
そういうときに、直ちに生産をストップしなさい。
それから原因を探って、
原因が判り対策を立てたら生産を再開するという考え方です。
「徹底したムダ取り」であり、「カイゼン活動」なのです。
不良はムダの中でも最大のムダです。
こういう話をすると誰もが納得しますが、
多くの人は「ムダとはなにか?」ということが具体的に解っていません。
例えば、
ある場所から、別の場所へ部品を運ぶ。
作業を終えた部品を数える。
確かに、これらは
「作業」をしているとはいえますが、「仕事」をしているとはいえない。
全てムダなのです。
ムダか、ムダでないかは、
その作業が付加価値を生んでいるかどうかで判断する。
これがTPSの考え方です。
どんな生産工程でも、前工程と後工程があります。
自分が作ったら、後工程に流すというのが一般的なやりかたです。
この方式では、自分の工程と後工程の間に仕掛かり在庫が
発生します。
ところが、
ジャスト・イン・タイムでは、こういうやり方をしません。
まったく“逆”になります。
後工程から指示がきて初めて作るのです。
そうすると、工程間在庫はゼロになる。
顧客(後工程)からの指示にもとづいて“初めて”作業に取り組む
ということであり、顧客本位の考え方です。
顧客の要求がすべての活動の出発点であり、
良否の判断基準となります。
TPSの大事なことは再発防止です。
再発防止策として、
一般的には2段階ですが、TPSでは3段階あります。
例えば、
テレビの画像が突然、乱れたとします。
そこで、テレビを手でたたくと直ったとする。
「現象」の除去ができたわけです。
ところが、
「原因」は除去されていないわけですから、
しばらくすると同じ問題が発生する。
TPSでは、第2段階として、問題の原因を除去するわけです。
テレビの例でいえば、埃によるショートが原因であれば埃を取る。
配線の錆が原因であれば、取り替える。
普通はこの2段階で終わりです。
TPSでは、これではダメなのです。
弟3段階として「真因」の除去をする。
埃が入らないように設計変更するとか、
配線をステンレスに仕様変更するといったことをやるわけです。
こうすれば、再発防止に留まらず、
問題発生以前に比べて、カイゼンされた(水準向上)が
実現されたことになります。
カイゼンには4つの段階が考えられます。
カイゼンをするというと、
「機械を入れたらどうか」というような話をスグしますが
まずは現場のカイゼンが大事です。
「4つのゼロ化と3つのムダ取り」を徹底的にやるのです。
4つの「ゼロ化」とは、
生産不良をゼロにする。
在庫をゼロにする。
生産停止(ストップ)をゼロにする。
運搬をゼロにすることです
3つの「ムダ取り」とは、
動作のムダ。加工のムダ。ヒトのムダです。
それをやった上で、
どうしても、これ以上はできないという段階になってはじめて、
生産設備のカイゼンをやる。
生産設備のカイゼンをやっても上手くいかない場合は、
製品の設計が間違っているのです。
製品のカイゼンをしないといけない。
それでも、ダメなら
その事業そのものが間違っているのです。
その場合は、事業のカイゼンです。
新規事業へ転換することも考えないといけない。
TPSは一般的に、現場のカイゼンだといわれていますが、
実は、事業革新なのです。
ビジネスのシステムそのものを変える。
TPSは、単なる技法ではなく、
このようにラジカルでドラスティックな考え方を持った
経営革新そのものと位置づけられます。
私は、TPSのこうした特質はもっと評価されるべきであると
考えております。
■■TPS定着のカギは、全員の意識改革■■
今、いろんな会社がTPSを導入しています。
しかし、なかなか成功していないのが実情です。
なぜでしょうか?
基盤ができていないとTPSは成功しないのです。
基盤というのは5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)です。
TPSでは
「整理」とは、必要な物と不要な物とを分けて、
不要な物を捨てることです。
そして、
必要な物を必要な時に、
すぐ取り出せるように順番にならべることが「整頓」なのです。
これをしないから、物を探すというムダをしてしまうのです。
物は使っていると必ず汚れてきます。
そこで「清掃」が大切になるのです。
そして、整理、整頓、清掃を維持することが「清潔」。
皆で決めたことは守る。これが「躾」です。
5Sを徹底するだけで、2、3年はかかります。
TPSという技法が定着するかどうかは
全員の意識改革によるわけです。
経営学では、これを組織文化といいます。
「メンバーが当たり前と考えている物の見方、考え方、
及び行動の仕方」が組織文化です。
これからは新QCD式の展開として、
QCDNSRが大事になるのではないでしょうか。
N(New Products):魅力溢れる新製品
しかも、S(Speed):他社よりも早くやらないといけない。
そうすると、
結果としてR(Reliability):信頼、ブランドができるのです。
さらに、社会がどんどん変わっていくと、
環境問題とか、社会的責任というようなことが
評価されるようになります。
そうすると企業の評価項目も変わってきます。
そういうことも考慮しながら
顧客の評価価値を高めるようにしないといけないのではない
でしょうか。
最後になりますが、
TPSはトヨタ自動車を中心に開発された
画期的な生産技法であるだけでなく、
革新的な経営技法であり、考え方であり、
日本発の人類共通の貴重な知的財産であると考えております。
人間のもつ頭脳の働き(知識創造活動)を最大限に引き出して
豊かな生活をつくりだすための叡智の結晶であり、
基盤には人間性尊重の考え方があります。
付記:
さらに詳細な内容に関心のある方は講演者の近書
『現代生産システム論―TPS(トヨタ生産システム)を中心として-』
創世社(2007年5月出版)、@2000円(税別)
を参照願います。

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